日程 : 2023年2月24日(金) 11:00 - 12:00
場所 : オンライン
講師 : 田中良和 博士
所属 : 理化学研究所 放射光科学研究センター
主催 : 強磁場コラボラトリー
世話人 : 鳴海康雄(大阪大学)
e-mail : narumi@ahmf.sci.osaka-u.ac.jp
要旨:
放射光光源の発展によって、いままで見えなかったものが見えるようになってきました。従来の実験室におけるX線回折とは全く異なる次元の世界が拡がったといえるでしょう。それは単にX線の強度が、何桁もの強度が上がったことだけではなく、X線の偏光やエネルギーが自由に操作できるようになったことに因ります。
今回、ご紹介するのは放射光光源を用いたX線回折によるCeB6の反強電気四極子秩序の観察とマルチフェロイック物質六方晶フェライトの磁気的な多重秩序変数の観察についての二つのトッピクスです。
CeB6 は低温で反強四極子秩序相( II 相 TQ=3.2 K 以下),反強磁性秩序相( III 相 TN=2.4 K 以下)を示します。これらの相が特異な温度-磁場依存性を示すことが知られています。ゼロ磁場での III相の磁気構造および、その高磁場側の III’ 相の磁気構造はすでに中性子回折実験によって解明されています。しかしII相の秩序状態はほぼ四半世紀の間不明でした。中性子回折実験を用いて,外部磁場を印加することによって波数ベクトル[1/2, 1/2, 1/2]に対応する反射面で回折強度があることが見つけられており間接的に,反強電気四極子秩序が確認されている状態でした。我々は、放射光光源から得られる大強度のX線によって、Ce 4f 電子一つが織りなす反強電気四極子秩序を確認しました。このX線回折の強度は通常のBragg回折の100万分の1程度です。我々は、磁場中でこの反射を観察することによってCe 4f 電子が形成する電気四極子が磁場によって回転する様子を確認することができました。[1] 六方晶フェライトはマルチフェロイック物質の一種で、電気分極や磁化などの秩序変数が互いに絡み合うことで非自明な電気磁気応答を示すことが知られています。共鳴X線回折を用いると、物質中で形成される複雑な磁気構造、ドメイン構造を可視化することができます。今回ご紹介する物質はY型六方晶フェライトBa1.3Sr0.7CoZnFe11AlO22とZ型六方晶フェライトSr3Co2Fe24O41でです。これらの物質はそれぞれAlternating longitudinal conical (ALC)構造、Transverse conical (TC)構造と称されるコニカル磁気構造を示し、異なる2種類の波数ベクトルで記述される磁気モーメント成分によって構成されることがわかっています。これらの磁気モーメントの各成分がそれぞれ独立した磁気衛星反射、もしくはBragg反射に寄与するため、共鳴X線回折を用いると各磁気モーメント成分を別々に測定することができます。我々は、これらの反射を調べることで、複雑な磁気構造を2つの成分へ分離して観察することに成功しました。これを利用し外部磁場による磁気ドメイン構造への影響を観察することができ、二種類の磁気ドメイン間の結合の有無、すなわち一方の磁気ドメイン制御を介して他方のドメイン構造が同時に制御されるか否かについてそれぞれの六方晶フェライトに対して明らかにすることができました。[2] セミナーでは、多極子の定義、非共鳴X線回折、共鳴X線回折、円偏光を用いたX線回折によるカイラリティの判別などについてもご説明いたします。
[1] Yoshikazu Tanaka, Koichi Katsumata, Susumu Shimomura, and Yoshichika Ōnuki, “Manipulating the Multipole Moments in CeB6 by Magnetic Fields”, JPSJ, 74, 2201 (2005).
[2] 上田大貴、田中良和、木村剛, “マルチフェロイック物質における共鳴X線回折による磁気ドメイン観察”, 日本放射光学会誌 33(5) 334 (2020).
どなたでも聴講可能ですが、事前のオンライン登録が必要になります。
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