International MegaGauss Science Laboratory, the Institute for Solid State Physics

(R3) The 10th High Magnetic Field Collaboratory Online Seminar

強磁場と異方性による三角格子反強磁性体の多彩な磁気相と圧力による量子性の制御

日程 : 2022年1月19日(水) 16:00 - 17:00

場所 : オンライン

講師 : 山本 大輔 准教授

所属 : 日本大学 文理学部 物理学科

主催 : 強磁場コラボラトリー

世話人 : 鳴海 康雄(大阪大学)

e-mail : narumi@ahmf.sci.osaka-u.ac.jp

要旨:

磁性体などの固体物質の性質は、主に自然界の化学合成のルールに従った組成(結晶構造やスピン量子数など)によって決定する。したがって新奇な機能を持つ物質を作成するためには、経験的な指導原理の下で偶発的に良い組み合わせを探し出す必要がある。一方で強磁場や圧力の印加は、既存の固体物質の性質を能動的に変化させる数少ない外的な手段である。特に、多数の異なる磁気状態がエネルギー的に準縮退しているフラストレート磁性体では、磁気基底状態の選択に対する磁場や圧力の影響が相対的に大きくなる。 フラストレート磁性の典型例である三角格子反強磁性体では、分子場解析において磁化過程に非自明な無限縮退が現れてしまうため、古典的な計算では低温磁気状態が一意に決定できない。したがって、小さな量子揺らぎや異方性が状態決定に本質的に重要な役割を果たし、その結果として磁化の値が飽和値の1/3に量子化された「磁化プラトー[1]」や、強磁場・異方性・量子揺らぎの3者の協奏によって生まれる「Ψ(π-coplanar)状態[2]」などの非自明な磁気相が現れる。また、Ba3CoSb2O9 [3]のような擬二次元物質においては、非常に小さな面間相互作用が新たな磁場誘起量子相転移を引き起こすことが分かっている[4]。 本セミナーでは、上述した理論的な既知事項(最近の発見を含む)を実験結果と絡めて紹介し、さらに圧力の印加による磁性体の量子性の制御に関する我々の最新の研究成果[5]について論じる。磁性体を構成する磁性イオンのスピン量子数Sは、その物質の量子性の強さに直結する量である。我々は、神戸大学分子フォトサイエンス研究センターにおける結合スピン鎖三角格子反強磁性体CsCuCl3に対する圧力下磁気測定実験と、理論解析による磁気パラメータフィッティングおよび有効2次元模型によるマッピングを行い、スピン量子数Sを圧力によって実効的に制御できる可能性を示した。このことは、結合スピン鎖物質への圧力印加によって、2次元フラストレートスピン模型の物理を量子性の能動的な制御下でシミュレートできるという画期的なアイデアをもたらす。

 

[1] A. V. Chubukov and D. I. Golosov, J. Phys. 3, 69 (1991).

[2] D. Yamamoto et al., PRL 112, 127203 (2014); PRB 96, 014431 (2017).

[3] Y. Shirata et al., PRL 108, 057205 (2012); T. Susuki et al., PRL 110, 267201 (2013).

[4] D. Yamamoto et al., PRL 114, 027201 (2015).

[5] D. Yamamoto et al., Nat. Commun. 12, 4263 (2021).

どなたでも聴講可能ですが、事前のオンライン登録が必要になります。
参加される方はこちらから登録をお願いします。

https://forms.gle/4y5MFgsNzHJeRHCh6